書籍やネット記事の見出しとして、「住まない実家は相続してはいけない」という言葉が広まっています。

半分は正しく、半分は危険な言葉です。この記事では、どこまでが事実で、どこからが飛躍なのかを制度と数字で分解します。

先に結論を言います。

「実家だけ相続しない」という方法は、法律上存在しません。 相続放棄は全財産の放棄です。実家を拒否すれば、預金も株もすべて失います。 だから本当の問いは「相続するか」ではなく、**「相続した後、どの出口を選ぶか」**です。

この言葉の「正しい半分」

まず、この言葉が指している現実は本物です。住まない実家を何も決めずに持ち続けると、確かにお金は出ていき続けます。

項目 年間の目安
固定資産税(+都市計画税) 物件による(納税通知書で確認)
管理(月5,000〜15,000円) 6万〜18万円
火災保険(空き家扱い) 1万〜6万円

年間十数万円が、何も生まないまま毎年出ていく。10年で百万円規模。さらに建物の劣化で解体費は上がり、売却価格は下がる——「放置は一番高い分割払い」という構造は、実家じまいの費用総目録に詳しくまとめています。

問題は、ここから「だから相続するな」に飛ぶところです。

飛躍①:「相続しない」は実家だけを選べない

相続放棄は「相続人の地位そのもの」の放棄です。家庭裁判所も一部だけの放棄は受け付けません

  • 実家(評価500万円)+預金1,500万円 の相続で、実家が嫌だから放棄する → 預金1,500万円も失います
  • 「兄に実家を押し付けて自分は預金だけ」は放棄ではなく遺産分割協議の話(兄の同意が必要)

つまり「住まない実家は相続してはいけない」を文字通り実行できるのは、放棄しても惜しくないほど財産全体が軽い、または債務超過のケースだけです。

飛躍②:制度は「相続して、早く売る」を優遇している

見落とされがちな事実があります。国の制度は「相続するな」ではなく、「相続した空き家は早く手放してくれ」という設計になっています。

その象徴が空き家の3,000万円特別控除です。相続した旧耐震の空き家を期限内(相続からおおむね3年・制度期限2027年末)に売ると、譲渡所得から最大3,000万円を控除——税額にして最大約600万円の優遇。「住まない実家」はこの特例のまさに対象そのものです。

「売れない田舎の家だから無理」と決めつけるのも早い。古家付き売却、買主側解体(2024年〜)、訳あり物件の買取、隣地への打診、更地にしての国庫帰属(総額200万〜400万円規模)——出口は放棄以外に複数あります

では、放棄が正解なのはどんなときか

はっきりしています。財産全体がマイナス(債務超過)のときです。

  • 親に借金・連帯保証・税金の滞納があり、プラスの財産を上回る
  • この場合は実家の売却額を云々する前に、相続放棄が第一候補

ただし放棄には鉄則が3つ:

  1. 期限は「自分が相続人と知った時から3ヶ月」(間に合わなければ期限内に伸長申立て・印紙800円)
  2. 決めるまで実家に手を付けない——解体・売却・家財の持ち出し・預金の解約は「承認した」とみなされ、放棄できなくなります(詳細は「やってはいけない実家の相続」の①
  3. 全員が放棄すると、家は自動的には消えない——相続財産清算人の選任(予納金20万〜100万円程度とされる)が必要になることがあります。「放棄すれば無関係」と言い切れない場面が残る点は知っておいてください

判断は3つの問いで足りる

問い① 財産全体はプラスか、マイナスか
   ├ マイナス → 相続放棄を検討(3ヶ月以内・手を付けない)
   └ プラス ↓
問い② 実家に出口はあるか(売れるか・控除は使えるか)
   ├ ある → 期限内に売却が最有力(控除で税負担を圧縮)
   └ 不明・なさそう ↓
問い③ 持ち続ける年間コストと、手放す一時コストのどちらが軽いか
   → 10年分の金額で比較して決める

問い②と③は、感覚では答えが出ません。数字で確認してください。

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よくある質問

Q. 住まない実家を相続したら、住まないままで罰則はありますか? 住まないこと自体に罰則はありません。固定資産税も「空き家だから」上がるわけではなく、上がるのは勧告を受けた場合か解体した場合だけです(勧告は全国累計3,078件と限られた運用。固定資産税の検証記事で計算しています)。ただし相続登記の放置には10万円以下の過料があり、3,000万円控除には期限があります。

Q. 誰も相続しなかったら実家はどうなりますか? 相続人全員が放棄すると、利害関係人の申立てで相続財産清算人が選任され、換価・清算の後に最終的に国庫へ帰属します。ただし誰も申立てをしなければ、所有者不在のまま空き家が残り続けます。「放棄すれば国が引き取ってくれる」という自動的な仕組みではありません。

Q. 実家だけ相続放棄することはできますか? できません。相続放棄は全財産が対象です。実家だけ手放したい場合は、相続した上で売却・買取・国庫帰属などの出口を使います。

Q. 相続した実家を、とりあえず数年置いておくのはダメですか? 「決めた上で置く」のと「決めずに置く」のは別物です。3,000万円控除の期限(相続からおおむね3年)を過ぎると税負担が数百万円変わり得ます。置くなら期限を確認してからにしてください。

出典