相続した実家を売却するとき、条件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(正式名称:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。

この記事は、国税庁が公開している公式チェックシートと同じ構造の12項目で、ご自身のケースが対象になりそうかを確認できるガイドです。

本記事は2026年8月2日時点の制度にもとづきます。適用可否の最終判断は税務署・税理士にご確認ください。

まず、いくら変わるのか

例:相続した実家が2,000万円で売れ、購入時の契約書が見つからない場合(取得費は売却額の5%で計算)。

控除なし 控除あり
譲渡所得 約1,800万円 約1,800万円 −3,000万円 → 0円
税額(長期譲渡20.315%) 約366万円 0円

約366万円の差です。売却額が大きければ、差は最大600万円規模になります。この特例を知らずに(あるいは期限を過ぎてから)売ると、この金額をそのまま失います。

あなたの期限はいつか——相続した年別の早見表

この特例には期限が2つあり、早い方が適用されます。

  1. 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
  2. 制度自体の期限:2027年(令和9年)12月31日まで
相続した年 売却期限
2023年(1月2日以降) 2026年12月31日 ← 今年です。残り約5ヶ月
2024年 2027年12月31日
2025年以降 2027年12月31日(制度期限が先に来ます)

⚠️ 1月1日に相続が開始した場合だけ、期限が1年早まります(例:2023年1月1日相続→期限は2025年末で、すでに終了)。1月上旬の相続の方は日付を正確に確認してください。

※制度期限(2027年末)は過去に延長されてきた経緯がありますが、次の延長は決まっていません。「延長されるだろう」を前提にしないでください。

12項目セルフチェック

国税庁の公式チェックシート(福岡国税局公開)と同じ流れです。すべて「はい」なら適用の可能性が高い状態です。

# チェック項目 対象外になる典型例
1 売却は2027年12月31日までに完了する 期限切れ
2 家屋と敷地の両方を相続で取得した 建物だけ・土地だけ、土地が借地
3 相続から3年目の年末(上の早見表)までに売る 期限切れ
4 分譲マンションではない(区分所有建物登記がない) 分譲マンションは対象外
5 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された 新耐震(1981年6月以降)の建物
6 亡くなる直前、被相続人が一人で居住していた 家族が同居していた
7 (老人ホーム入所の場合)入所時に要介護・要支援認定を受けていた+入所後も家をそのまま維持 認定なしの自主入居
8 同じ被相続人からの相続でこの特例を使うのは初めて 2回目の適用
9 売る相手は第三者(親族・親族の会社ではない) 子・親・同族会社への売却
10 売却額は合計1億円以下(共有者・分割売却分も合算) 兄弟の売却分と合算で1億円超
11 「耐震改修して売る」「取り壊して売る」「買主が翌年2月15日までに改修・取壊し」のどれかを満たす 旧耐震のまま引き渡し、買主も何もしない
12 相続してから売却まで、貸していない・住んでいない・事業に使っていない 賃貸に出した、親族を住まわせた

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特に間違えやすい5つのポイント

① 期限の「3年」は誤解が多い

「相続から3年以内」ではありません。「3年を経過する日の属する年の12月31日」です。年内いっぱいまで猶予がある一方、1月1日相続だけは期限が1年早く見えます(上の早見表参照)。

② 老人ホームに入っていた場合は「認定」がすべて

「亡くなる前は施設にいたから対象外」と諦める方と、「施設入所でもOKと聞いた」と安心する方、どちらも早計です。分かれ目は:

  • 入所の時点で要介護認定・要支援認定(または障害支援区分の認定)を受けていたか
  • 入所後、家を貸したり誰かが住んだりしていないか(家財置き場のままならOK)

認定を受けずに自主的に入居したケースは対象外です。介護保険被保険者証や施設の契約書で確認できます。詳しくは老人ホーム入所ケースの記事で解説しています。

③ 「タダで親戚に貸す」のもアウト

相続後に一度でも貸付け・居住・事業に使うと、その後空き家に戻しても適用できません。家賃を取らずに親族を住まわせた場合も「貸付け」に含まれます。「空けておくのはもったいない」の一言が、数百万円の控除と引き換えになります。

④ 1億円の判定は「自分の分だけ」ではない

兄弟で共有相続して各自が売る場合、全員の売却額を合算して1億円以下かを判定します。例えば3人がそれぞれ4,000万円で持分を売ると合計1億2,000万円となり、全員が適用できません。さらに、自分の申告後に他の共有者が売って合計が1億円を超えると、遡って修正申告が必要になります。共有の場合は必ず売却計画を全員で共有してください。

⑤ 税額がゼロになっても確定申告は必須

控除を使って税額が0円になる場合でも、確定申告をしなければ特例は適用されません。「税金がかからない=申告不要」ではない点に注意してください。

2024年の改正で変わった2つのこと

(1)買主側の取壊し・耐震改修でもOKになりました(実務上とても大きい)

以前は「売主が耐震改修する」か「売主が取り壊して更地で売る」しかありませんでした。2024年1月1日以降の売却では、譲渡後、翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行う場合も対象になります。

つまり——売主が解体費用(木造30坪で100万円台〜)を負担せずに、控除を使える道ができたということです。売買契約書に「翌年2月15日までに取り壊す」旨の特約を入れる形が実務です。買主が不動産会社のケースで特に使いやすい方法です。

(2)家屋・敷地を取得した相続人が3人以上だと、控除は1人2,000万円

2人以下なら従来通り1人3,000万円です。なお「3人以上」に数えるのはその家屋・敷地を取得した相続人であり、相続人全体の人数ではありません(相続人が4人でも、家を取得したのが2人なら3,000万円)。細かい数え方は事案によるため、該当しそうな場合は税理士に確認してください。

手続きの流れと必要書類

  1. 市区町村で「被相続人居住用家屋等確認書」を取得(※税務署ではありません)
  2. 売却の翌年に確定申告

確認書の申請には、被相続人の住民票の除票、電気・ガスの閉栓が確認できる書類、売買契約書のコピーなどが必要です(老人ホーム入所の場合は介護保険被保険者証の写し等も)。交付まで1週間程度かかるため、確定申告期限の直前に動くと間に合わないことがあります。

確定申告には、譲渡所得の内訳書・登記事項証明書・確認書・(耐震ルートの場合)耐震基準適合証明書などを添付します。

「取得費加算の特例」とどちらが得か

相続税を納めた方は、もう1つの特例「取得費加算」(相続開始から3年10ヶ月以内の売却で、納めた相続税の一部を取得費に加算できる)も使える場合があります。

2つは併用できません。どちらか選択です。

  • 相続税を納めていない(基礎控除以下だった)→ 迷わず空き家特例
  • 相続税を納めた → 両方を計算して比較(相続税額が大きいほど取得費加算が有利になる可能性)。税理士に比較を依頼する価値があります

よくある質問

Q. 空き家の3,000万円控除はいつまでですか? 制度期限は2027年(令和9年)12月31日の売却分までです。ただし相続から3年目の年末が先に来る場合はそちらが期限です。2023年に相続した方は2026年12月31日が期限です。

Q. マンションでも使えますか? 区分所有建物登記がされている分譲マンションは対象外です。ただしマンションは戸建てより市場性が高く、控除がなくても売却しやすい傾向があります。

Q. 取り壊してから売っても使えますか? 使えます。家屋を全部取り壊し、売却まで敷地を駐車場などに使っていないことが条件です。2024年からは取り壊さずに売り、買主が翌年2月15日までに取り壊す形でも適用できます。

Q. 相続した家に誰も住んでいませんが、何もしなくても控除は受けられますか? 売却と確定申告が必要です。また空き家のまま放置しても固定資産税は「6倍」にはなりませんが(固定資産税「6倍」の検証記事で検証しています)、控除には期限があります。放置で失うのは税額の差ではなく、この控除です。

出典(一次情報)