実家の相続で大きく損をする人は、怠けていたわけでも欲をかいたわけでもありません。ほとんどは**「良かれと思った行動を、間違った順番でやった」**だけです。

片付け、解体、親族への貸し出し——どれも一見まともな行動ですが、タイミングを間違えると、相続放棄の権利や数百万円の税控除がその瞬間に消えます

この記事では、実際にお金を失う9つの行動を、失うものの大きさとともにまとめます。

制度の内容は2026年8月3日時点。個別の判断は税理士・司法書士・弁護士にご確認ください。

① 相続放棄を考えているのに、実家に手を付ける

失うもの:相続放棄の権利そのもの(=借金があれば全額背負う可能性)

親に借金がありそうで相続放棄を検討している——その段階で次のことをすると、法律上「相続を承認した」とみなされ(法定単純承認)、放棄ができなくなります

  • 実家を解体する・売却する
  • 長期の賃貸に出す、家賃を受け取る
  • 価値のある家財・貴金属・骨董品を売る、持ち帰る
  • 親の預金を解約して使う、その預金から借金を返す

一方、明らかに価値のないゴミの処分や、雨漏りの応急修理(保存行為)、自分の財布から固定資産税を払うことは、原則セーフとされています。それでも境界は微妙なので、放棄の可能性が少しでもあるなら鉄則はひとつ——「決めるまで、実家に何もしない・何も持ち出さない」

期限は「自分が相続人だと知った時から3ヶ月」。間に合わない場合は、期限内に家庭裁判所へ期間伸長の申立てができます(収入印紙800円)。

② 「実家だけ相続放棄」を前提に計画する

失うもの:計画全体

「ボロボロの実家だけ要らない。預金は相続したい」——気持ちは分かりますが、法律上できません。相続放棄は「相続人の地位そのもの」の放棄なので、実家を捨てれば預金も株もすべて失います。

実家だけ手放したい場合の道は、放棄ではなく売却・買取・(更地にして)国庫帰属などの「出口」です。この記事の後半とあわせて検討してください。

③ 遺産分割協議と相続登記を先延ばしにする

失うもの:最大数百万円の控除+10万円以下の過料

「兄弟の話し合いがまとまってから考えよう」——その間も、期限は3つ同時に進んでいます。

  1. 空き家の3,000万円特別控除:相続からおおむね3年(+制度期限2027年12月31日)
  2. 相続登記の義務:取得を知った日から3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。2024年3月以前の相続分は2027年3月31日が経過措置の期限
  3. 取得費加算の特例:相続から3年10ヶ月

協議がまとまらないうちに控除の期限が切れると、売却時の税負担が最大約600万円変わります。協議が長引きそうなら、応急措置として「相続人申告登記」(登記義務を簡易に果たす制度)があります。まず期限の位置を確認してください。

④ 空いている実家に、親族をタダで住まわせる

失うもの:3,000万円控除(最大約600万円)——永久に

「空けておくのはもったいないから、いとこに住んでもらった」。この一言で、空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。要件は「相続から売却まで、事業・貸付け・居住に使っていないこと」——家賃を取らない親族への貸し出しも「貸付け」に含まれ、後から空き家に戻しても復活しません。

親切のつもりの一手が、この記事の中で最も高くつく可能性があります。貸すかどうかの判断は、必ず控除の価値と比べてから(→実家は売るか貸すか)。

⑤ 出口を決める前に解体する

失うもの:解体費100万〜260万円+選択肢

「更地の方が売りやすいだろう」と先に解体するのは順番が逆です。

  • 2024年からは買主が翌年2月15日までに取り壊す形でも控除が使えます(=あなたが解体費を払わなくてよい道がある)
  • 解体するにしても、補助金は契約・着工前の申請が必須。先に業者と契約したら、50万〜150万円の補助を取り損ねます
  • 固定資産税は1月1日時点の状態で決まるため、解体のタイミングで1年分の税額が変わります

解体は「売れなかった場合の次の手」。順番の詳細は解体費用と補助金の記事にまとめています。

⑥ 「固定資産税が6倍になる」に焦って安売りする

失うもの:本来の売却価格との差

「早く手放さないと税金が6倍になりますよ」——この売り文句を聞いたら、一歩引いてください。6倍にはなりません。 特例が外れた場合でも土地の固定資産税は最大約4.2倍、家屋分の税額が消える解体後の総額では1.5〜2倍程度に収まるケースが多い。しかも特例が外れるのは「勧告」を受けた場合か解体した場合だけで、勧告は全国累計3,078件と限られた運用です。

焦って売る理由として「6倍」は弱すぎます。急ぐべき本当の理由は税金ではなく控除の期限です。数字の検証は固定資産税「6倍」の検証記事で全て計算しています。

⑦ 権利証・売買契約書・納税通知書を処分する

失うもの:数百万円規模の税額差

実家の片付けで一番やってはいけないのが、書類の処分です。特に親が家を買ったときの売買契約書。これが無いと、売却時の取得費が「売却額の5%」でしか計算できず(概算取得費)、譲渡所得税が大きく膨らみます

最優先で確保する書類:

  • 購入時の売買契約書・領収書
  • 権利証(登記識別情報)
  • 固定資産税納税通知書(毎年の課税明細)
  • 介護保険被保険者証・施設の契約書(老人ホーム入所があった場合。控除の証明に使います)

⑧ 良かれと思って、生前贈与で建物を先にもらう

失うもの:3,000万円控除の適用資格

「相続でもめないように、生前に家をもらっておこう」——注意してください。空き家の3,000万円控除は相続または遺贈で取得した家が対象です。生前贈与で先に取得した建物は対象外。節税のつもりの生前対策が、より大きな控除を消すことがあります。生前贈与を考えるなら、この特例との比較を必ず税理士に確認してください。

⑨ 1社の言い値だけで売り先を決める

失うもの:比較すれば見えたはずの差額

買取業者の提示額は、一般に仲介で売った場合の7〜8割程度とされます。それでも「早い・確実・残置物ごと」という価値があるので買取が正解のケースはありますが、比較せずに決めると、その差額が妥当だったのか一生分かりません。査定も解体見積もりも、最低3社。これだけは手間をかける価値があります。

まとめ——9つに共通するのは「順番」

やってはいけない 正しい順番
放棄検討中に手を付ける 財産調査 → 放棄判断 → それから片付け
協議・登記の先延ばし 期限の確認 → 協議(応急は相続人申告登記)
タダで住まわせる/先に解体 出口の判定 → それから使い方を決める
焦って安売り/1社で即決 数字の確認 → 3社比較

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よくある質問

Q. 実家の相続でやってはいけないことを一言でいうと? 「出口(売る・解体する・持ち続ける・相続放棄)を決める前に、実家の状態を変えること」です。片付け・解体・貸し出しはすべて、出口の選択肢を狭める可能性があります。

Q. 嫁いだ娘には実家の相続権はありますか? あります。結婚して姓が変わっても、子としての相続権は変わりません。「嫁に出たから関係ない」は法律上の根拠のない俗説です。

Q. 相続放棄したら実家の解体費用は誰が払うのですか? 放棄が有効なら、あなたは所有者ではなくなるため解体費用を負担する義務は原則ありません。ただし放棄時に実家に住んでいた・管理していた場合は、次の管理者に引き渡すまでの保存義務が残ります。相続人全員が放棄した場合は、家庭裁判所への相続財産清算人の選任(予納金20万〜100万円程度とされる)が必要になることがあります。

Q. 住まない実家は相続しない方がいいのでしょうか? 一律には言えません。「住まない実家=負動産」という単純化には反例が多くあります(別記事で検証しています)。まず売却額と控除の有無を確認してから判断してください。

出典